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シャルル・デュトワとの出会いは、大学1年生の時に買ったLPレコードだった。
当時、吹奏楽コンクールで話題になっていた「パリの喜び」という曲を、原曲のオーケストラで聴きたくなってレコード店で購入したのが、デュトワ指揮、モントリオール交響楽団のLPだった。
その演奏は衝撃的だった。
生き生きとしたリズム、美しいメロディの歌い方、
そして、何よりもきらびやかなサウンドに魅了された。
オーケストラって、こんな音がするんだ……
それまで聴いていたオーケストラとは、明らかに違ったものだった。
その後、CDプレーヤーを買った時も、最初に買ったCDはデュトワが2枚、ショルティが1枚。
「ローマ三部作」とチャイコフスキーの作品集だった。
その後、手に入るCDはほとんど購入した。
しかし、生の演奏に触れることはなかなか叶わなかった。
モントリオール交響楽団や、フランス国立管弦楽団と度々来日し、
またNHK交響楽団との共演も多かったのだが、
まだ若かったので、経済的にも余裕がなかった上に、愛知の田舎(名古屋ならともかく)に住んでいたので、
仕事を休まな問いコンサートには間に合いそうになかったのが大きな理由だった。
そのうち、モントリオール交響楽団とは喧嘩別れという形となったりして、ますます聴く機会は減ってしまったのだが、
退職して、今を逃したら二度とチャンスはないかも、と思い、
東京までNHK交響楽団の定期演奏会を聴きに行ったのが38歳の時だった。
実に、「パリの喜び」での出会いから20年が経っていた。
その時のプログラムは、「スペイン狂詩曲」(ラヴェル)、「ピアノ協奏曲第20番」(モーツァルト)、「協奏的交響曲」(シマノフスキ)、「ラ・ヴァルス」(ラヴェル)だったが、
意外にラヴェルよりもモーツァルトの方が良かったという印象がある。
その後も、N響との共演は、
東京で1回(「ローマの謝肉祭」、リスト「ピアノ協奏曲第2番」「ローマ三部作」)、
名古屋で1回(「優雅で感傷的なワルツ」「左手のためのピアノ協奏曲」、チャイコフスキー「悲愴」)聴くことが出来たし、
今でも聴いて良かったと思うのは、サントリーホールでのフィラディルフィア管弦楽団との公演。
ストラヴィンスキーの「火の鳥」と「春の祭典」というプログラムだったが、
モントリオールとは違ったキラキラとしたサウンド、流麗な歌い回し、強烈なリズム……、未だに忘れられない。
その、デュトワの演奏を聴くことが、もう二度と出来ないんじゃないかという事態が起こってしまった。
一昨日、過去のセクハラ(英米では the sexual misconduct = 性行為と表現している)を告発され、
フィラディルフィア管弦楽団は、桂冠指揮者の称号を剥奪、ボストン響やシカゴ響、ニューヨークフィルなども今後の共演を辞退、
音楽監督を務めているロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団も、昨日、当面の演奏活動を停止すると発表した。
本人からは、今日、「身に覚えがない 根拠も全くない」と法的措置も辞さない構えで告発を否定しているが……
結局、無実の証明は難しい(もちろん同様に有罪の実証も難しいが)だろうし、
イメージダウンは著しく、81歳という年齢も考えると、復帰の望みは薄いんじゃないだろうか。
ちなみに……
来年の12月にはN響と、ドビュッシーの「聖セバスチャンの殉教」、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」全曲などの公演を予定していたらしい。
今月N響と演奏したオール・ラヴェル・プログラムも良かったようで、テレビでの放映を楽しみにしていたのだが、これもおそらくないだろうし……
モントリオール響との終わり方といい、なんとも残念至極な形になってしまい、
ひょっとしたら本人以上に、ここ3日間落ち込んでいるのです。