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「フルトーが吹きたくて…」と言って、吹奏楽部に入って来る子は意外と多い。
他には、サックスやクラリネットも人気だった。
でも、そんな希望をすべて叶えてあげるわけにはいかない。
だって、吹奏楽というのはアンサンブルなわけで、そこに、楽器のバランスは大きな影響を及ぼすから。
中には、「フルートが吹けないんなら部活を変わります」と言った子すらいた。
そんな子には「だったら、今のうちに他の部活に移りなさい」と、早々に引導を渡した。
「ここは吹奏楽部であって、フルート部ではないのだから。」
こういう話は、なかなか他の先生には分かってもらえなかった。
「やりたい楽器をやらせてあげればいいじゃない」と言われる人も多かった。
親もまた然り。
「フルートを買いますから、やらせてやって下さい。」という親もいた。
でも考えて欲しい。
もし、野球部で全員ピッチャーをやりたいと言ったら、全員ピッチャーにするのか?
もし、サッカー部ででキーパー志望が1人もいなかったら、キーパーなしでチームを組むのか?
ただし、野球なら、たとえセカンドを守っていた子でも、努力すればサードや外野を守ることは可能だろう。
ところが、吹奏楽部の場合、トロンボーンをやっていた子がフルートに変わるとすれば、
それはほとんどゼロからのスタートに近いことになってしまう。
だから、吹奏楽部に入って、どの楽器を担当するのかはとても大きなことなのだ。
大げさにいえば、その子の人生を左右するかもしれない。
ボク自身、当初のパート割りのままトロンボーンを続けていたら……
あるいは第一志望だったサックスをやっていたら、
きっと、今とは違った人生を歩んでいたと思う。
あるいは、音楽高校に進学していただろうから。
チューバは、中高生が個人で所有するにはいろんな意味で重い楽器だったということが、高校進学での選択肢を狭めた大きな要因だった。
さて、
乙川中学校吹奏楽部卒業生諸君、
君たちははたして希望通りの楽器に決まっただろうか?
そして、今、その楽器を担当していたことをどのように思っているだろうか?
たとえ希望とは違った楽器になったとしても、
3年間その楽器を演奏することで、満足感や充足感を味わえたのなら、それは佳としよう。
でも、それが原因で、音楽を続けること自体なくなってしまったとしたら、やはりそれはかなり遺憾なことだと思う。
ただ、希望とはまったく違う楽器に決まった子は、ほとんどいなかったと思う。
なぜなら、希望は第5希望まで書かせたから。
フルート、オーボエ、ファゴット、クラリネット、サックス、
トランペット、ホルン、トロンボーン、ユーフォニウム、チューバ、
コントラバス、パーカッション
12しかないパートから、5つ選ぶことになれば、たいていは全てのパートの希望者を埋めることが出来る。
書いてしまった以上、「それは私が選んだんじゃない」とは言いにくいし、
気持ちの上でも、一応希望の楽器になったということで納得してしまうことが多い。
これは、楽器を決める上でとったマインド・コントロールの1つだ。
そして、全ての楽器を最低一度は体験するということもした。
これをすることで、楽器そのものの印象や魅力とは別の、そのパートの雰囲気を味わうことが出来る。
楽しく練習しているパートもあれば、妙に陰気な雰囲気のパートもある。
おもしろいことに、このパート体験をひと通り終えると、各楽器の希望者が大きく変わってしまうのだ。
ちなみに、例年、なぜかチューバやホルンに希望が動き、トランペットからは離れて行くことが多かった。
割り振り……
乙中の場合、年に20〜30人の新入部員がいたので、各パートにも複数の新入生を配置することが出来た。
これはラッキーだった。
たとえドロップアウト(退部・転部・転校など)する子が出たとしても、
その楽器を担当する子がいなくなってしまうというリスクはかなり減らせる。
一方で、オーボエやファゴット、コントラバスなど、1人しか配置出来ないパートには神経を使った。
まずは、各パート1人はリーダー格の子を配置する。
これには、小学校から送られて来た指導要録を活用させてもらった。
リーダー的な性格だけでなく、成績(特に国語と算数)や運動能力も参考にした。
ここで気を付けたいのは、小学校でリーダー的活動をしていた子の多くは、単に目立ちたがり屋なだけだったりすることが多いということ。
中学校では、こういうのはもう通用しない。たいていは浮いてしまう。
頭がいいか、
運動が出来るか、
勘がいいか、
器用か、
あるいは音楽の才能だけはあるか……
こりうち1つ飛び抜けていれば、たいていはものになる。
そして、こういう子が1人いれば、後の子たちを引っ張って行って、パート全体のレベルも上げることが出来る。
そう眼目を定めて、面接を何度か行なう。
楽器ごとの適性もある。
体つきは大きな要素だということは誰にでも分かるだろう。
大人ならほとんどの場合問題ないが、中学1年生ではこれが意外と大きい。
肺活量を云々する生徒や親も多くいた。
「うちの子は肺活量がないから小さな楽器の方が……」
始める前から大きな肺活量を持った子なんていない!
それに、上記の楽器の中で一番肺活量が必要な楽器はフルートだということは意外と知られていない。
口と楽器が離れているせいで、せっかく吹いた息のほとんどは楽器の外に漏れてしまうのだ。
楽器の重さについても……
おそらく、吹いている姿勢を考えると、一番不自然なのはフルートだろうし、
一番重く感じるのは左手だけで支えているトロンボーンではないだろうか。
あるいは、首から吊っているサックスも身体には負担が大きいかもしれない。
重そうなチューバやユーフォは、イスや膝に楽器を乗せられる分、運搬時は重くても吹いているときは楽器の重さはさほど感じることはない。
そんな話もしつつ面接を進め、
息のスピードを試すために吹き矢を使ったりホイッスルを吹かせたり、
歯並びが極端に悪い子は金管は避けたり、
ピアノ等をやっていて、絶対音感がある子は移調楽器(クラリネット、サックス、ホルン、トランペット)には慎重になった。
このパート決め、嫌いではなかったけれど、やはりかなり気を遣った。
気を遣った分、決まった後でゴチャゴチャ問題になるようなことはほとんどなかったが、
本人よりも親の方がメンドーで……
自分の娘が、優雅にフルートとかを吹いている絵を期待しているんだろうなぁ〜。
それが、例えばパーカスとかになったりすると、納得出来ないのか「楽器を買い与えますので」と異動を訴えられたことは数回あったな。
もちろん聞く耳持たず、そのうち何人かは転部して行ったっけ……
話が逸れた……
ともかく、1人リーダー格の子を配置したら、
個々の特性を考慮に入れながら、本人の希望を優先しつつ割り振る。
学校の楽器の数は決まっているし、バランスもある。
たいてい、6月の始めにやっとパート決定。
1ヶ月以上かけて悩みに悩んで割り振るのだ。
そして、7月20日頃のコンクールに1年生だけのバンドで出場。
たいていは銀賞だったけれど、一度だけ金賞ももらったっけ。
さて、ここからは内緒の話。
最初に決めるパートは何だと思う?
まずはオーボエ候補。
2,3人の候補者を選んで、それぞれ別のパート(クラリネット、フルート、ペット等)に配置。
様子を見て、親にも話をした上で、夏休み頃にオーボエに異動させる。
続いて、しっかりした性格の子をコントラバス。
そして、真面目で明るい子をチューバ。
次は、音感があってコツコツ出来る子をティンパニ候補。
息のスピードの速い子をトランペットに。(高音に強そう)
ソロの吹けそうな性格の子を、サックス、ユーフォ、フルートに。
等々、決めて行って……
最後に、余った子たちはクラリネットに。
ゴメン。たくさんいるから、何とかなっちゃうだろうという……
いやいや、それだけじゃないんだけどね……
クラを吹いてた子たち、けしてきみが余り物だったというわけじゃないんだよぉ〜〜